徳富蘆花『順礼紀行』

徳富健次郎(蘆花)著、東京、警醒社、明治39.12、475p

<本文>

 本書は、作家・徳富蘆花が、エルサレムなどのキリスト教の聖地を巡歴し、そしてロシアのヤースナ・ポリャーナにかねてから傾倒していた文豪トルストイを訪問した際の旅行記
 時は明治39年日露戦争直後。徳富は38歳。仕事も家庭もうまくいかない鬱々とした状況を打破すべく決行された旅行だったらしい。前半は、海路入ったエルサレムや通過したイスタンブールなどのことが書かれているが、ポイントは、後半を占める78歳のトルストイとの対話であろう。
 徳富は20歳の時にトルストイの評論を日本で最初に書いた人物であり、そんな彼にしてみれば、トルストイの訪問はかねてからの宿願であったのだろう。最初は、簡単な自己紹介の手紙と自著の英訳本を送りつけたのだが、その返事を待たずにこの旅に出てしまい、そして寄港地からいきなり「先生にお宅に参上します。ロシア語しゃべれないけど」と手紙を送りつけて、本当に行ってしまったというのが、この訪問の実際らしい。かなり強引ではあるが、半ば確信犯だと思うのは僕だけだろうか?
 聖地の堕落っぷりには落胆してしまった徳富だが、突然の訪問者すら快く迎え入れてくれた老トルストイとの5日間にも及ぶ対話は、彼のその後の人生に大きく影響を投げかけるほど充実したものだったらしい(会話は片言の英語で行われた)。
 トルストイの許を辞した徳富は、モスクワなどを訪れた後、シベリア鉄道を使って帰国した。のべ120日間に及ぶ旅だった。

ルート;
カイロ→エルサレムガリラヤ→イスタンブール→ヤースナ・ポリャーナ→モスクワ→サンクト・ペテルブルグ→ウラジオストック