犬に追いかけられる

 最終日は、昼過ぎに従姉夫婦と合流して、クタの従姉夫婦宅へ行くことになっていた。 ということで、朝食後、最後の見納めとばかりにウブドの街を散歩し、プリ・ルキサン美術館を訪れたりして、我々親孝行ツアーご一行は、のんびりと、そして優雅に過ごした。
 問題は、帰りである。ウブドの街中からホテルへは2kmほど離れているので、従姉の車がなければ、ホテルの無料シャトルバスを利用するのだが、その時は次のバスまで30分以上も待たなければいけないようだった。タクシーを使うほどの距離でもないし、時間にまだ余裕があったので、我々はホテルまでの道をのんびり歩いて帰ることにした。

 車でこの道を何度も通ったのだが、道沿いに人家が立ち並んでいたり、時に田圃の中を通ったりして、実に気持ちの良い道だ。確かに、歩いても気持ちよい。すれ違う人とニッコリ挨拶を交わしながら歩くのも悪くない。

 が、いたのである。犬が。

 私は犬は飼っているが、チベットで野犬に追いかけられたことがトラウマになっていて、旅先での犬との関わりを極度に避ける。とは言え、東南アジアの犬は暑さのためか、基本的にやる気がない。これはバリも例外ではない。しかし、この道にいた犬は、どういう訳か律儀に吠え出した。最初は無視しようと思っていたのだが、あろうことか我々目掛けて突進してきたのだった。

「ギャー」と叫び、逃げ惑う母親たち。

さすがに私は逃げるわけにもいかず、あらん限りの勇気を振り絞って手にした土産物袋(中身は編みカゴ)を大上段振りかざし、かつ奇声を発して犬を威嚇した。

親孝行プレイ>最大の見せ場である。

 これが意外と功を奏したのか犬は撃退できたのだが(逃げたおかげでその犬の担当テリトリーから出たという気もするが)、正直なところ、犬よりも母親たちの叫び声の方に驚かされたことをここで告白しておきたい。

 とにもかくにも、こうして、我々のウブド滞在は終わったのであった。