Days in Leh


 レーでの拠点は、ラダックでは珍しいクリスチャンのおばさんが切り盛りしているビムラ・ホテルというどのガイドブックにも載っているような「ちょっと良い安宿」だった。

 そういうわけで夏場は人気の宿らしいが、僕が滞在したのはオフシーズンということで、滞在中も客は僕とタイゾウ君だけだった。宿帳のページをめくってみても、僕らの前には一週間ほど前にイタリア人のカップルが投宿していただけで、更にその前となると、2005年に遡らなければいけない。
おまけに、夏場は出るらしい水道も、冬場は汲み置きに変わる。シャワーを頼むと、おばさんが携帯ガスコンロを使っておもむろにお湯を沸かし始めるといった具合で、僕はその「ちょっと良い」メリットをあまり味わえなかったのは事実なのだが。

 ところで、この宿を選んだ理由の一つが、二階に三方が自分の伸張並みの大きなガラス戸となっている部屋があったことだ。レーの旧王宮をずっと仰ぎ見ることができるという素晴らしい眺望と、日中の日当りの良さ。僕は、この部屋をすっかり気に入っていた。
もちろん、三方がガラスなので要所要所でのカーテンが欠かせなかったり、高度3,000メートルの陽射しはそうそう浴びていられないほどに厳しかったり、おまけに立て付け悪くて隙間風が入ってきたりして、何も良いことばかりでもないのだが、それでも短所が長所を上回ることはないのだ。

 朝は、まだ暗い6時には目が覚める。寒さと頭痛に顔をしかめながら、寝袋の中で凍えていると、漸く空が白み、旧王宮がゆっくりと姿を現す。
 日が完全に昇ったら、顔を洗って、前の晩に買っておいたパンを少しかじる。そして、ゴンパやメインバザールの方へ散歩に出かける。

 昼ごはんを済ませてから、宿に戻ると洗濯やシャワーの時間だ。この気候では、両方とも太陽があるうちでないと、とてもではないができないのだ。
 さっぱりしたところで、洗濯物を干したベランダに椅子を引っ張り出して、本を読む。ただ、陽射しが厳しいのでサングラスは欠かせないのだけれども。

 読書に飽きたら、洗濯物を取り込み、また散歩に出かける。バザールを冷やかしながら土産物を見たり、インターネットカフェに寄ったりしていると、次第に日が傾いてくる。

 ホテルに戻る前に、近所のレストランでチャイを一杯飲む。それから、ホテルで寝込んでいたT君を誘って、再びメインバザールのレストランへと歩いていく。

 適当なレストランで、適当な夕食を済ませると、どの店のシャッターも下りてしまっている。仕方なく夜食兼翌朝の朝食となるパンを買ってから、跋扈する野犬に注意しながらホテルに戻る。

 夜は、頼りない裸電球の下でひたすら読書をして過す。しかしすぐに眠くなって電気を消すと、大きなガラスの窓から満天の星空が見える。
 ホテルを中心とした僕のレーでの日々は、大体こんな感じだった。