「地域社会圏」に図書館を置いてみる

twitterのTLを眺めていたら、最近よく目についたので購入した一冊。

地域社会圏モデル ――国家と個人のあいだを構想せよ (建築のちから)

地域社会圏モデル ――国家と個人のあいだを構想せよ (建築のちから)

「地域社会圏」とは、一つの住宅に一つの家族が住むというモデルが現在の硬直した日本の運営システムをつくり、それが今や大きく破綻していると考える山本理顕による問題提議。家族の枠を超えた400人のための住まい方を提案し、公と私を媒介する中間集団のあり方イコール、アラタな公共的空間とは何かを考える試みである。その山本の問題提起に応え、30代の若手建築家、中村、藤村、長谷川が、日本の農村、郊外、都心という3つの具体的なサイトで「地域社会圏モデル」を計画。

内容の紹介は飛ばすとして、サブタイトルにもある「国家と個人のあいだ」に位置づけられるのが、「地域社会圏」というこの言葉。ここでは、400人という単位で定義されています。自分と同年代の建築家による興味深い提案が並んでいますが、幸か不幸か、本の中では図書館の「と」の字も出てこなかったので、この「地域社会圏」における図書館というものについて少し考えてみます。あくまでも思考のトレーニングとして。
図書館にとっては、400人というこの単位は非常に中途半端です。正確な統計は面倒なのでチェックしませんが、図書館一館(中央館・分館をフラットにみて)あたりのサービス対象人数は、確実に桁が違います。かと言って、この「地域社会圏」ごとに図書館を作るのも、コスト的にあり得ない(幸運にもあれば、それは全世代が共有できる資源として圏内のコアに位置づけることもできるかもしれませんが)。一方、世の中はインターネットの普及やデジタルコンテンツの登場により、必ずしも「場」としての図書館を必要とせずとも(良し悪しは別にして)成り立ちつつある。そして、図書館もインターネットを介した個人へのサービスに注力しようとしている。
そんな中で、この「地域社会圏」に図書館をどう位置づけられるのか。キーワードは、本書でも藤村龍至氏が言及していた「ユビキタス」という言葉かな、と思っています。オンライン・オフライン両方の意味で、です。
オンラインという意味では、インターネットを介した資料(コピーも可。これからは電子書籍も含みます)/情報(レファレンス)のやり取りを推し進めていけばよいとして(それはそれで大変ですが)、問題はオフライン。ここで提示されているのは比較的内部完結した「地域社会圏」のモデルです。したがって、オフラインのサービスについては、その中に入り込まなければいけない。その時のコンセプトは、次の二点に絞れるのかなと思います(書くと当たり前すぎて面白くないな…)。

  • 各「地域社会圏」に必ず存在するデバイス(コンビニとか学校とか)を介したサービス
  • 各「地域社会圏」をネットワーキングするサービス

ところで、この本を読んでいて、(建築に関しては門外漢の自分にとって)新鮮なことがもう一つありました。
それは、あるお題に対して、若手の建築家が(実現の有無は別にして)コンセプト及びモデルを提示し、それに対して講評を受けることで更にブラッシュアップさせていっているというこの一連の流れ。自分でコンセプトを考え、それに基づいた設計図を引き、模型を作る、というのは建築を学ぶ学生が必ず通る道だとは思うのですが、そんなことをやったことがない僕にはとても興味深い。
図書館界には、斬新すぎる建物について、主に使い勝手の点から不平不満を述べる人も多いのですが(自分もたまに…)、では、サービス主体である図書館員が理想とする図書館(別に勤務先に拘らなくていい)のトータルなコンセプト・サービスのイメージを提示し、講評を受ける場というのがるかというと、それはありません。図書館を立ち上げる/リニューアルするという経験は誰でもできることではないので、よくて個別サービスについてのものしか語れていないのが現状ではないでしょうか。
すでに存在する図書館についてはLibrary of the Year(今年は自薦・他薦も受けているようですね)という賞がありますが、自分が理想とする(=まだ「ない」)図書館のコンペというものがあると面白いと思いました。うん、これは企画としてやってみたいな。いかがでしょう?


10/5/4追記
「自分が理想とする(=まだ「ない」)図書館のコンペというものがあると面白いと思いました」と書いていたら、早速似たような?企画が行われていました…