東京美術学校校友会『河口慧海師将来西蔵品図録』

東京美術学校校友会編 『河口慧海師将来西蔵品図録』 東京, 画報社, 明治37(1904)年.

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河口慧海(1866-1945)と言えば、黄檗宗の僧侶にして、当時鎖国下にあったチベットに二度(1900-1902、1913-1915)にわたって単身潜入し、ラサで仏典研究を行った人物として思い浮かべる方も多いと思う。また、その一回目のチベット行の旅行記『西蔵旅行記』(上、博文館、1904年)『西蔵旅行記』(下、博文館、1904年))も有名である。

(河口が滞在していたラサ・セラ寺の、約100年後=2001年の様子)

河口の帰国は明治36年の5月だが、彼がチベットに潜入したというニュースは、当時センセーションを巻き起こしたようだ。そして、その半年後の11月、河口がチベットから持ち帰った品々の展示会が東京美術学校(現・東京芸術大学)において開催された。今回紹介する本書は、その際の展示図録である(残念ながら近代デジタルライブラリーの画像は、殆どまともに読むことはできない)。
ここで注目すべきは、河口が持ち帰った品が、仏典やタンカ(仏教画)、仏像などの仏教関係のものにとどまらず、動植物の標本やチベット民具など、多岐にわたっている点であろう。彼の旺盛な好奇心は、結果としてあまり外に出ることのなかった、19C末から20C初頭のチベット文化の息吹を伝えるものとなっている。
これらの品は、二度目の入蔵時に持ち帰った品々も含めて、現在は東北大学総合学術博物館などにおいて収蔵されており、それらはデジタルアーカイブとしてWebでも公開されている。

東北大学総合学術博物館 河口慧海コレクション
http://webdb2.museum.tohoku.ac.jp/data_base/tounitibi/ekai/index.html

ちなみに、河口は帰国後、大正大学などでチベット語の研究に励んだが、『西蔵語読本』(出版事項不明)というチベット語教本も書いている。