石井研堂『十日間世界一周』

石井研堂 『十日間世界一周』東京, 学齢館, 1889(明治22)年, 84p.

<本文>  ※第2版

今回取り上げる『十日間世界一周』は、<旅行記>ではない。「旅行体験を語る」という体裁になっているのだが、「飛行船を使って10日間で世界を一周する」などというトンデモ設定がなされている時点で、これは「旅行記の名を借りた世界の名所案内」ということが分かる。もちろん、子ども向けだ。
著者の石井研堂は編集者として少年向けの知的啓蒙雑誌「小国民」「世界之少年」「実業少年」等を世に送り出す一方で、『明治事物起原』(橋南堂, 明治41年)を記すなど、在野の博物学者としても活躍した異能の文化人である。
この本のタイトルは、もちろんかの有名なジュール・ヴェルヌ(Jules Verne)著『八十日間世界一周』をパロディであろう。明治22年当時、既に二種類もの邦訳が出版されていたのだからほぼ間違いはあるまい。

さて、本書を読み進めていくと、「世界第一」ということにこだわり、

というようなことが書かれている。
これを「荒唐無稽」と言って切って捨てたり、SF小説の一種として面白おかしく読むということは難しくない。しかし、ここには富国強兵という旗印の下、明治人が見聞し学ぼうとした世界と、その旅行のモデルがここに提示されていると解釈してみるのは行き過ぎだろうか?