チェンマイ(1)

 チェンマイ行きのバスは快適とは言い難かった。エアコンが無いので窓は開け放つ。これはいい。エアコンより風の方が気持ちいいのは列車で証明済みだ。ところがこのバス、100km/hを越える猛スピード(オンボロ車体には、という意味で)の中でもドアを閉めないのだ。後部ドアの真横に陣取った僕は何度も急カーブで放り出されそうになった。又、そのクラクションのうるさいこと。タイのバスはどうやら前を走る車はすべて抜き去り、対向車線のバスにはチキンレースを仕掛けなければ気が済まないらしい。従って、クラクションは頻繁に使用されることになるのだ。しかもこのバス、途中でパンクしてしまい、20分程ハイウェイの側の空地で立往生してしまい、そして更に、そこでアリの襲撃を受け、したたかにかまれてしまった。まさに踏んだり蹴ったり。
 チェンマイでの宿はローズG.H.という韓国人経営とおぼしき所のドミトリーに決めた。スコータイで連れだったYが良いと言っていたバナナG.H.は日本人の溜まりと化していたので、どうも馴染めなかったのだ。このローズG.H.のドミトリーは5階の屋根裏部屋で前に広いベランダもあったので、ベッドの汚さを割り引いても40Bは安い。

 チェンマイはタイ第2の都市らしいが、想像していた程でもなく、古都といわれるだけあってどこか落ち着いた雰囲気を持つ街だった。日本でいうと、京都といったところか。チェンマイといえばナイトバザールが有名だろう。僕もタイ北部名産とかいう銀製品のアクセサリーを買うつもりだった(実際は、バンコクで買うのが一番安いらしい)。着いたのは宵の口だったので、自慢の健脚にもの言わせて旧市街地(旧城壁内部とその周辺の古くからの市街地。近代的なビルの建つ新市街地はチェンマイ駅周辺、旧市街地の東に位置する)を歩き回ることにした。買い物は明日にまわして、まずチェンマイがどんな街かこの目で見てやろうと思ったのだ。が、地図も持たず、日暮れだったので、あにはからんや、というより寧ろ当然道に迷ってしまった。最初、マーケットを見てやろうと思って、大分街のハズレまで遠征したのだが、生憎その日(2/21)が日曜日だったので、すべての店が閉っており、仕方無く、旧市街地の中心ぽいターぺー門前の広場でボンヤリすることに計画変更して戻ろうとして、途中、曲がる角を間違えてドツボにはまってしまったのだ。水を買ったついでにコンビニで尋ね、交番で尋ね、結構危なそうな裏路地に迷い込んだりしつつ、なんとかターペー門に辿り着いたら9:00を過ぎていた。2時間以上、彷徨していたことになる。

 ターペー門前の広場では日曜の夜というせいか、舞台を組んで、いかにもローカルといったライブをやっていた。僕は途中から見ただけだったが、それでもラインナップが面白かった。最初はジャズ。次に出てきたのは、所謂“タイ版演歌”。そしてトリは(1番声援が大きかったが、おそろしくダンスの下手な)MAXモドキだった。確かにこれなら僕の様な旅行者から老若男女、皆楽しめる。レンタルバイクにまたがったまま、じっと腕組みして見つめる若い旅行者、地べたに足を折り曲げるように座り、食い入るように覗き込んでいる老人、地元のジゴロと肩を並べて眺める旅行者、様々だった。中でも印象的だったのが“演歌”が始まった途端、踊り出した地元の酔っ払い(と思う)だった(それにつられて踊り出した白人のおじいさんも又、楽しかったが)。確か遠藤賢司がライブのMCで「日本人を一番感動させてくれるのはやっぱり演歌で、そしてそれが“ROCK”なんだ」みたいな事を言っていた。やはり何処の国でも、そこに根ざした音楽こそがそこに住む人を最も感動させ、そして又、そこを訪れる旅人を感動させるのかもしれない。