タシケント散策

それでも、タシケントでは往年のシルクロードの影をまったく見られないのかと言うと、そうではない。地下鉄のチョルスー駅を降りると、そこは中央アジア最大のマーケット、「チョルスー・バザール」である。
人と物であふれるこのバザールの主力は、近郊の農村で取れた農作物と中国やロシアから入ってきている日用品・電化製品。さまざまな言語で記された品物を、さまざまな顔つきの商人が売っているのを見ると、ここがユーラシアのど真ん中に位置する交易の要衝だということを思い出すことができる。

ところで、ソグド人と言えば、ユーラシアを股にかけた遠隔地交易の担い手有名だが、そのおひざ元であるソグディアナの経済基盤は、紀元前5世紀以来、アラル海に注ぎ込むアム河とシル河の水を利用した灌漑農業である。もっとも、幾ら灌漑網を整備しても乾燥地域での灌漑農業では限度がある(賄える人口には限度がある)ため、彼らはユーラシア各地に植民し、そして結果として交易ネットワークを築いていくことになったのだが。
ともあれ、このマーケットに並んだ多様な野菜や果物、花を見ていると、この地方の豊かさが実感できるというものだ。もっとも、灌漑のしすぎで肝心の河の流水量が減り、その結果、河の流入先のアラル海が年々縮小していることが最近問題になっているが、何とも皮肉なことである。

そして、バザールと言えば食。安くてウマい、旅行者の味方である。我々のウズベキスタンでの最初の昼食は、バザール内のの屋台街で美味そうに炊きあがっていたプロフ(羊肉載せチャーハン。1400スム)。昔、ウイグル自治区で食べて以来の大好物の一品なのだが、ここのは刻んだ人参キムチなどもまぶしてあって、また違った味わいだ。キムチというのはちょっと意外だったが、タシケントの人口の1%は、高麗族と呼ばれる、スターリンによって露朝国境から連行されてきた朝鮮系の人々なので(市場でもキムチがいっぱい売っている)、実は驚くことではないようだ。

ちなみに、マーケットから北に少し歩いて行くと、そこはタシケントの旧市街に入り込んでいく。中央アジア独特の上から泥を塗ったレンガ作りの壁が入り組んだ路地裏は、マーケットの喧噪と打って変わった静かなた佇まいだ。普通のツアーだと、タシケントはブハラやウルゲンチへの中継点としてすっ飛ばされがちだが、アイスクリーム片手に歩くタシケントも、悪くない。