徳江八郎『米国紀行』

徳江八郎 『米国紀行』 伊勢崎, 徳江八郎, 明治27(1894)年, 93p.

<本文>

徳江八郎は、群馬県伊勢崎に徳江製糸所を立ち上げた実業家。この旅行記は、徳江が伊勢崎の製糸業者を代表して、1893年のシカゴ万国博覧会への伊勢崎生糸の出品と併せてニューヨークを視察した一部始終を記した一冊である。旅程は、次の通り。1893年8月に横浜を出発し、9月11日にシカゴに到着。21日にニューヨーク、29日にワシントンとめぐり、そして、11月27日に横浜に帰還した。
徳江によれば、この旅行の目的は、下記の3つにあったという。

  • 世界の製糸産業の動向を視察する。
  • 博覧会の視察して各国の製品や嗜好を知る。
  • 伊勢崎の生糸の輸出の可能性を探る。

この旅行記の特徴は、文中で徳江が「余の如き一事業の外見るの眼なき者に於ては別に記すべきものなし」と言っているように、一貫して製糸に関わる事柄にのみ記述を絞っている点であろう(サンフランシスコでは滞在している日本人の様子についても少し書いているのを例外とすると)。結果として万人向けの内容とはなっていないが、地元の製糸業者のために情報を供するという本書の本来の目的は十二分に果たしていると言えるだろう。
生糸については筆者のよくするところではないので委細は省くけれども、自分たちの作った生糸を売り込み(さすがに上手くいかなかったようだが)、他国の生糸について根掘り葉掘り質問攻めにしている徳江の姿は、世界に挑もうとする明治の男の気概であふれている。