鳥尾小弥太『洋行日記』

鳥尾小弥太 『洋行日記』 東京, 吉川半七, 明治21(1888)年, 51p.

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長州藩士として戊辰戦争で各地を転戦し、維新後は陸軍を中心に要職を歴任した鳥尾小弥太(1847-1905)は、国防会議議員であった1886年2月より欧州出張に赴いた。本書は、横浜からイタリアに至るまでの航海日記を収めた旅行記である。
鳥尾は後に日本国教大道社という団体を興すほどに禅に傾倒していたが、そのためもあってか、一読して仏教国スリランカ、特にコロンボについての記述が目につく。そしてついに、3月21日の夕暮れ時には、「極楽」を見たようだ。

夕くれちかくなりて海のつら鏡の如く一点の波瀾なし。日の沈むころは西のそら紫に虹の色を染出てて雲にうつり水に映してさなから錦の如く、佛の西方に極楽国ありと説き示し玉ひしはかかる気色をまのあたり見て人の心にさもありなんと思ふれはにや。

「あとがき」は、新聞記者・政治小説家として有名な東海散士が書いている。なんでも、鳥尾の後を追うように欧州出張に出かけた谷干城一行の随行員だったらしい。散士は、結局ウィーンで鳥尾と合流し、その後、折しも勃発したブルガリアの動乱をともに視察したようだ。
なお、当時の日本人の外国での面白エピソードを集めた『赤毛布』(熊田宗次郎編, 文禄堂, 明治33年)には、「鳥尾小弥太の苺代」という鳥尾の外遊中のエピソードも収録されている。これによれば、鳥尾(イチゴが大好物)がパリにて、季節はずれのイチゴを散々食べ散らかしておいて、請求された代金のあまりの高さに逆切れしたという。