釈宗演『欧米雲水記』

釈宗演 『欧米雲水記』東京, 金港堂, 明治40(1907)年, 330p.

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宗演(1859-1919)は、福井県生まれの禅僧(臨済宗)。
彼は、従来の禅宗の修行に励むだけでなく、慶應義塾で学んだり、スリランカに留学したりするなど幅広く知識を吸収し、また外国人にも禅の指導を行ったり、日露戦争に布教師として従軍したりするなど、禅宗の新たなあり方を模索した人物である。結果として円覚寺の中興を果たすなど、近代日本仏教界の発展に大きく寄与したほか、鈴木大拙や西田幾太郎らの錚々たる弟子の指導を行った。また、明治26年にはシカゴで開催された万国宗教大会にも出席したり(『万国宗教大会一覧』(鴻盟社, 明治26年))、日露戦争に従軍僧として赴いたりもした。一言で言えば、非常にユニークな僧侶だったようだ。
さて、日露戦争後、宗演はアメリカへの布教を決心する。篤志家から援助をかき集めて路銀を用立て、そして明治38年、通訳として鈴木大拙を伴ってサンフランシスコに渡った。ここで宗演は、9か月にわたって彼をアメリカに誘った張本人である弟子のラッセル夫妻のもとで禅の指導を行った。
その後、ニューヨーク、シカゴ、フィラデルフィア、ワシントン(ここではルーズベルト大統領と面会)と移動し、翌39年5月にはラッセル夫妻の援助を受けてヨーロッパに渡った。そして、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアと周った後、スリランカ、インドのブッダガヤに立ち寄ってから9月に帰国した。
本書は、その1年半にも及ぶ彼の旅の記録である。彼の旅の記録を読んで驚かされるのは、その行動力であろう。1年6か月からサンフランシスコに滞在した9か月を除く期間でアメリカ大陸を縦断し、ヨーロッパを歴訪し、インド・スリランカの仏蹟に詣でている。しかもそれは各地での講演や要人・学者との面会をこなしながらである。50才を過ぎてのこのバイタリティーにはただ驚かされるばかりだ。
最後に、彼がルーズベルト大統領に語った壮大な展望を紹介して、このエントリーを締めくくることにしたい。

仏教が欧米化し、耶蘇教が日本否東洋化せば世界の平和是に於てか始めて成らん。