ヘルシンキ滞在記:其の肆


 ヘルシンキは美しい街だ。
 下降を始めた飛行機の窓から、黄金の麦畑と深緑の森と蒼い湖の織りなすフィンランドの国土を見下ろしたとき、「美しい国だな」と思った。
 飛行機を降りて、市内に向かう路線バスの窓から僕の目に入ってきたのは、キレイに整頓された街並みと至るところに残された緑。僕の知っているアジアのカオスや、或いは日本のちぐはぐさとは待ったく異なる風景だった。

 そうしてたどり着いたヘルシンキの街並みは、ネオ・クラシカルな建物と最近の建物の混ざり具合が絶妙なバランスを保っていて、澄んだ青空にも、どんよりとした曇り空にも、雨が上がったばかりの朝にも、刺すような日差しの夕方にも、よく合っていた。
 ただ残念だったのは、海からのヘルシンキを堪能できなかったこと。湾に点在する小さな島々をすり抜けた先に次第に姿を現す「バルト海の乙女」は、僕にもっと違った顔を見せてくれたかもしれないと思う。

 この街で展開されている様々なブランドの独特のセンスも、僕なんかが言うまでもなく、面白い。フィンランドの街やそこに住む人たちの表面的な大人しさ、地味さからは想像しにくい鮮やかな色使いが印象的だが、それらが全く嫌味のない仕上がりになっている。それらをまとってヘルシンキの街を歩く人々は、その美しい街並みに溶け込んでいた。

 そんなわけで、東京の街ですれ違う人がMarinekkoのカバンなんかを抱えているのを見たとき、僕は美しいヘルシンキの街並みを懐かしく思い出す。