「DAVID BOWIE is…」に行ってアーカイヴについて考える


現在、東京で開催されている「DAVID BOWIE is…」に行ってきた。
2013年のロンドンを皮切りに世界を巡回し、各地で大盛況だったらしいこの展示の素晴らしさについて、もっとうまく語ることができる人はいくらでもいるだろうから、ここでは言葉は費やさない。(ちょっと高いがその価値はある)図録もあるし。

デヴィッド・ボウイ・イズ 復刻版 (SPACE SHOWER BOOKs)

デヴィッド・ボウイ・イズ 復刻版 (SPACE SHOWER BOOKs)

危うく涙腺が崩壊しそうになった展示の余韻冷めやらぬまま、ネットサーフしていて見つけたこの記事に、ここでは注目したい。
「DAVID BOWIE is」展 ジェフリー・マーシュ インタビュー(2017/1/13)
この展示は、ロンドンにあるヴィクトリア・アンド・アルバート博物館の企画なのだが、Geoffrey Marshはそこのシアター&パフォーマンス部門のディレクターであり、この展示を仕切ったキュレーターの一人だ。
Marshが人に紹介されて、ニューヨークにあるボウイのアーカイヴを訪れたところから、この企画が始まったという。

私たちはこれまでにもいろいろなアーカイヴを見てきたけれど、デヴィッドのコレクションは普通のロックスターのものではなかった。どんな大物バンドも大抵はほとんど何も残っていないものです。マネージャーが持ち逃げしたり、倉庫が焼け落ちたり、どんどん紛失されて……。それに物をコレクションするという行為そのものが、あまりロックンロールじゃないでしょう。そういうのはむしろビジネス的なものです。パフォーマーがそういうことをするのは、非常に強い、自分自身の運命みたいなものを感じている場合じゃないかと思います。デヴィッドのコレクションを見て、まるで彼がキュレーターであるかのような完璧さにびっくりしました。彼はよく美術館に足を運んでいたから、キュレーションについて理解していたのでしょう。彼は自分が作ったキャラクター、"デヴィッド・ボウイ"をキュレートした。

なんと、デイヴィッド・ボウイのアーカイヴがあるのだという。
確かに、今回の展示にはファンでなくともどこかで見たことがあるであろう歴代の衣装から、ファンなら感涙ものの名曲の歌詞を書きなぐったメモまで、様々なモノが出品されていた。これらはすべて、ボウイのアーカイヴで管理されており、開催にあたりそこから出品されたようだ。そう言われると、下のほうに「special thanks to david bowie archive」というクレジットの入ったウェブサイトもよく見かける。
それにしても「デイヴィッド・ボウイのアーカイヴ」とは、これいかに?
気になってググってみると、ニューヨークのRACK & PINIONという展示のデザインなどを手がける会社が「The David Bowie Archive」を手がけていることが分かった(先の記事に出てくる「彼のアーキヴィスト(記録保管係)、サンディ」とは、ここのSANDRA HIRSHKOWITZ女史のようだ)。
このアーカイヴについて、他の情報はないかと探してみたら、一つ面白いものが見つかった。
V&A gains “one-off” access to David Bowie Archive(2012/9/4)
ここにはこんな記述がある。

Items from Bowie's archive are kept in different locations, but according to Broackes, most are stored in New York, where the musician's archivist, Sandy Hirshkowitz, is based. “There are more than 60,000 objects. He's never thrown anything away,” Marsh says. Although the curators did not meet Bowie, they “sat down with his full-time [archivist] in New York and went through the photos, and his people gave us immense help with the very complicated music and film rights”.
“It's a very well-organised archive, and they're adding to it all the time,” Broackes says. Bowie's costumes are kept in climate-controlled conditions, and the collection is “properly catalogued; it's like we work [at the V&A]”. Items that will be seen for the first time include “designs on the back of fag packets that he sketched when he was travelling on planes”.

要約すると、

  • アーカイヴのコレクションは複数の個所で保存されているが、主にはニューヨークのSandy Hirshkowitzのところにあり、所蔵点数は6万点を超える。
  • 展示を行うにあたり、専属のアーキビストが複雑な音楽や映像の権利関係の処理までサポートしてくれた。
  • コレクションにはV&Aにも引けを取らないレベルのメタデータが適切に付与されており、また適宜コレクションの追加も行わる(当時、ボウイは存命中)など、適切な管理がなされている(空調も完備)。

といったところか。今回の展示が、このアーカイヴとアーキヴィストなくしては成立し得なかったことがよく分かる。
それにつけても驚かされるのは、「アーカイヴ」というものに対するボウイの先見性と、それを可能にするビジネスシステムだ。「一回きり(one-off)」と銘打っているが、これはあくまでもV&Aにとってそうだというだけで、このアーカイヴが管理され続ける限り、また切り口の違ったボウイの回顧展が遠くない将来、開催されるのかもしれない。逆に言えば、今回のようにコレクションが活用できる(=マネタイズできる)限り、このアーカイヴは管理され続けるのかもしれない。

ビジネスとアートとアーカイヴの幸福な関係がここにある。と言えば、お花畑がすぎるか。