荻野万之助『外遊三年』

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荻野万之助という人物のことは詳しく調べられていない。
分かった範囲で書くと、慶応義塾卒業後に憲法行政法等の勉強のためにアメリカ・ドイツに留学していたこと、留学中も『慶應義塾学報』に欧米の政治や外交について何本かの論説を投稿していたこと(本書に一部収録)、下って大正14年(1925年)には大倉商事に勤務していたこと(同年刊行の『柯公追悼文集』に寄稿している)、くらいである。
本書は、明治36〜39年のアメリカ・ドイツ留学中に執筆したエッセイ、日記、論説をまとめたもの。ドイツ滞在中のものは比較的カッチリした論説・レポートが多いが、一方、(セントルイスワシントン大学大学院に在籍した)アメリカ滞在中のものはエッセイや日記が多め。プレゼントが飛び交うクリスマスの浮かれた様子や、中国系の人々と過ごす大晦日や、授業/ゼミの様子などなど、当時の留学生が誰しも目にしたであろう風景が描写されていて面白い(折からバンクーバーを訪問した梁啓超にも会いに行っていたりする)。