「図書館はコミュニティの核になるか」に参加

最近刊行された猪谷千香さんによる『つながる図書館:コミュニティの核をめざす試み』は、全国各地で同時多発的に取り組まれている「図書館」と「図書館的なもの」をめぐる様々な取り組みの<いま>を切り取った(そしてストーリーを持たせた)レポートとしてうまくまとめられていました。そう言えば、「新書」という業界外の人も手に取りやすい形で図書館のことが本になるのは、(図書館の使い方…等のハウツーものを除けば)2003年の『未来をつくる図書館』以来ではないでしょうか。
未来をつくる図書館―ニューヨークからの報告― (岩波新書)

未来をつくる図書館―ニューヨークからの報告― (岩波新書)

ということで、その刊行記念のトークイベント「図書館はコミュニティの核になるか」(1/15 20:00〜22:00 @下北沢B&B)に参加してきました。幾つか予定されているイベントからこのイベントを選んだ理由は一つ。著者の猪谷千香さん、編集者の仲俣暁生さん、そしてブックコーディネーターの内沼晋太郎さんといういわば「図書館の周辺」に位置する人たちが「図書館」(と「図書館的なもの」)について語る…というのが面白そうだったから。こういうイベントは、ありそうでなかなかないと思います(3年前に友人と手がけたトークイベント「知が拡散する時代のアーカイブ・キュレーション」も同じく図書館の周辺に位置する人に登壇してもらいましたが)。
トークイベントは2部構成で、前半が猪谷さんが取材で撮りためた図書館のスライドを紹介しながら本のあらましを紹介し、後半は3人であれやこれやと鼎談、そして最後に会場からの質疑。議論を無理やりまとめてみると、

  • 多様なニーズや取り組みが見えるようになっている中で、各人の「図書館にこうあってほしい」というものが顕在化している一方で、従来の図書館の枠組みは制度疲労を起こしているのでは。
  • 図書館は、単に「貸出冊数」のみに評価軸を置くのではなく、地域の課題を踏まえた「役割」をどう果たすのかが大事。そして、その「役割」は地域ごとに異なるものなので、一言で定義づけられるものではない。ただ、どういう役割を果たすにせよ「居心地の良い場所」であってほしい。
  • それぞれの地域に住む我々自身が、(図書館・書店・マイクロライブラリー等を包含した)<地域の本の生態系>にどうあって欲しいのかが大事。

といったところでしょうか。図書館業界の人だと「分かってるよ」或いは「知ってるよ」というものだとは思うのですが、これらが<業界の外>からの声だということは留意すべきだと思います。余談ですが、一つ目のポイントが、昨年に出版された内沼さんの『本の逆襲』で描かれている構図と同じなのは偶然ではないと思います(そう言えば、内沼さんは図書館員も「本屋」の中に括っていました)。

本の逆襲 (ideaink 〈アイデアインク〉)

本の逆襲 (ideaink 〈アイデアインク〉)

個人的にちょっと驚かされたのは、登壇者が図書館関係者でないだけでなく、満員となった会場の参加者のほとんどが図書館関係者でなかったこと。僕自身、2010年のL-1グランプリ優勝後の新聞社のインタビューで「図書館の人間だけでは、図書館の問題は解決しない。多様な人と話し合っていきたい」とコメントした(2010.11.26 毎日新聞/神奈川版)のですが、ここ数年の地方分権の流れや3.11を経てようやく機が熟してきたのかもしれません。
先に紹介した『未来をつくる図書館』が一つの起爆剤となって図書館の<課題解決支援>が進展したというのはよく聞く話ですが、この『つながる図書館』以後はどんな動きが出てくるのでしょうか。Libray of the Yearの意義を「真似たらいいことを知らしめる」ことにあると喝破したレポートもありましたが、ここで紹介された様々な取り組みが「真似」されていくことは間違いないと思います。