acco『ひとつだけ』

帰省した際に、以前紹介した奈良のRecord Shop Djangoで、accoこと榊原明子さんの新作『ひとつだけ』を買った。彼女は、奈良を拠点に活動するピアニスト・作曲家であり、僕の中学・高校時代の同級生でもある。

  1. 震災15周年メインテーマ
  2. 君はどこへ駆けてく
  3. 天使
  4. ひとつだけ ~arrange version~
  5. torque
  6. 平城山
  7. 湯の花に月を観る
  8. SATSUKI
  9. UCHU
  10. Starchild ~long version~
  11. ひとつだけ ~Piano solo version~

本人のボーカルの入ったものもあるが、基本的にはピアノ・ソロ。僕は音楽を語るための語彙を多く持つわけではないし、彼女と多くを語ったことがあるわけでもないのでうまく言えないけれど、どの曲も(僕の知る)彼女らしい、跳ねるように軽やかでいてどこまでも澄んだ音色が美しい。
とは言え、最も印象に残ったのはやはり「震災15周年メインテーマ」(NHKの神戸震災15周年番組のテーマ曲として作ったものらしい)。狙ったわけでもないのにこの曲が入っている(CDは3/20発売)ことに、因縁めいたものを感じないわけではない。地震の直接的な被害を受けずに暖かい部屋で音楽を聴くことができる僕ですら、漠然とした緊張と恐怖がないまぜになった感情が常に心の隅に引っかかったような、日常と非日常がごちゃまぜになったような生活を送っている。けれども、夜、誰もいない部屋でこのCDをかけると、その間だけフッと心が軽くなる気がする。それだけでも、この音楽はこの時期に生み出されるべくして生み出されたと言って良いのだろう。

彼女の音楽を聴いていると、どういうわけだか7年前に訪れたスリランカのゴールを思い出した。南国特有の刺すような陽射しが和らぐ夕方、人々はインド洋からの風に吹かれるためにオランダ人の残した要塞の岸壁へと集まってきて、海を眺めながら散歩したりベンチで友人と話し込んだりと、思い思いの時間を過ごしていた。僕が訪れた一年後にこの街も大津波に襲われて数千人単位で人命が失われることとなった。2009年のインタビューでも似たようなことを言ったけれど、それがあったからか、この街の何でもない穏やかな光景というのが、とても印象に残っている。