- 作者: 青木健
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/11/11
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私は学生時代、ゾロアスター教/ケン(示+天)教で卒論を書こうとして9世紀の長安を生きたとあるペルシア人とトルコ人の夫婦の墓誌銘を読んだ(が、途中で彼らはネストリウス派キリスト教徒だと判明した)し、指導教官の一人もウイグル=マニ教史で学位を取った人なので、この辺りは結構興味のあるところだったりする。
著者によれば、マニ教(マーニー教)とは教祖マーニー=ハイイェーがゾロアスター教やキリスト教そして仏教など諸宗教の様々な要素を取り込みつつ、彼一代で完璧なまでに構築した極めて「人工的な宗教」だという(大抵の宗教は、教祖亡き後に教団や教義が完成されていく)。その核となるのが教祖自身が遺した一連の著作物(及び絵画)で、これらが様々な言語に翻訳され、そしてその結果、その教えは一時的とはいえ西はイベリア半島から東は中国まで広まった。マニ教はある一面で、「書写の宗教」だったと筆者は指摘している。
本書に書かれたマーニーの生涯と彼の説く教えの始末は、それはそれで非常に面白いのだが、図書館という視点から最も興味深いのは、「マーニスターン」(中世ペルシア語で、「留まる=マーンダーン」+「場所=スターン」から成る造語)と呼ばれる聖職者(彼らは一所不在の伝道生活を送ることを義務付けられている)たちの仮宿。マニ教草創期からイラン高原からエジプトなど広範囲で設置されたらしい。そして、その機能として次の5つがあったという。
- 聖典や絵画を収納し、筆写や修復も行う場
- 断食と説教の場
- 祈祷と懺悔の場
- 教えと指導の場
- 病気の聖職者の休息の場
つまり、マニ教徒たちの図書館であると同時に、信者と聖職者たちの交流の場としても機能していたのだ。そして、中央アジアではマーニスターンが荘園を取得し、キャラバン交易の基地になっていったという(マニ教の東方伝播は中央アジア出身のソグド商人たちが担ったのは広く知られる事実)。
ここから図書館への示唆をやや強引に読み取るとすると、「図書館」が書物を中心とした(或いは書物しか扱わない)機能というのは、実は普遍的な存在ではないということかと思ったりする。時代や地域、或いはその宗教に応じて様々な機能を併せ持つべき「コミュニティの中心」であることが、図書館を成立させる一番大事な要素とでも言えるだろうか。
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