旅土産


 所帯持ちのサラリーマン・バックパッカーの方ならご理解頂けるのではないだろうか。一人旅において、「土産」というものがいかに大切であるかということを。
 しばらく仕事と家庭を放棄して、何の役にも立たない旅行なぞにウツツを抜かす自分への矛先を少しでも和らげるためには、土産という小道具は欠かせない。旅よりも帰国してからの方が当然長いし、何だかんだ言ったって重要なのだ。自分への土産はプライスレスな思い出で十分だが、そんなことを他人、とりわけ相方にでも口走ろうものなら、白眼視されるに決まっている。
 むろん、かくいう私自身、昔から「土産」を重んじていたわけでは決してない。最初の一人旅のときなぞは、いかに安くあげるかだけを考えた結果、ほぼ手ぶらで帰って親に呆れられたものだ。そんな私も人並みに就職し、伴侶を得て、それでもなお有給を利用しての一人旅を重ねる中で、さすがに今までのようにはいかないと気付き、スタンスを変えたのだ。
 結果、一つの土産物購入方針に辿り着いた。かさばらなくて、そして旅の風情が感じられるものを、いかに安く買うか。これに尽きる、と。そんなわけで、今回の旅でも「土産物購入」というのは一つの、しかし重要な構成要素だった。
 そして、ダラムサラへ。到着してすぐに、私は悟った。この街は土産物が充実している…。
 居並ぶ土産物屋には、チベット風情あふれるマニ車やタルチョにタンカ、さらには"FREE TIBET"とプリントされた服やカバンが、満載だった(その殆どはネパール製だったりするのだが)。私の経験則からはじき出された土産物偏差値は、なかなかのものだった。だから、すぐに土産物の物色を始めた。隣室のMurataくんにしてみれば、何でこの男は旅に出てすぐ土産物の心配するんやろうか、アホちゃうか。と思いったころかもしれないが、人目を気にしている場合でもない。
 まずは、友人、職場と相方以外の家族から。この辺りこそ、先ほど掲げた方針にのっとっていかに面白いものを買うのか、という意味では、腕の見せ所である。結果、"FREE TIBET"とプリントされたトートバックやTシャツ、そしてミニ・タルチョの5本パックをそれぞれ幾つか購入した。自分用には、チベット代表サッカーチームのレプリカユニフォーム。これぞ買いでしょう!と思って、500ルピーにも関わらず即買いしたのだが、冷静に見るとブランドのタグ等がついておらず、海賊版疑惑が浮上している。
 そして、最後は相方用。こここそが勝負どころである。選んだのは、ネックレス。メインバザール沿いのの宝石屋で、シーズンオフということで明らかにモチベーションを失っていた店員から、これでもかとばかりに値切り倒してのお買い上げ。
 かくして、私は今回もまた、円滑な社会復帰のための準備を無事に終えたのであった。