海野力太郎『心酔記』

海野力太郎 『心酔記』 東京, 海野力太郎, 明治26(1893)年, 24p.

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1861年生まれの海野力太郎『実用簿記法』(春陽堂, 明治32年)を記して日本に簿記法を紹介した人物として知られている。
その海野は最新の簿記の知識をどうやらアメリカ留学時に仕入れてきたらしい。そして、帰国した翌年の明治25年、彼の地で見聞きしたことと自分の思いをまとめた『心酔記』という冊子を刊行した。その10数ページばかりの小冊子は彼の友人・知人に配られただけだったが好評だったようで、その一年後の明治26年に再版を印刷・刊行した。それが本書である。
隅田川を見ればミシシッピ川と重ね合わせ、銀座を歩けばブロードウェーを思い出し、歌舞伎や家の近所の浅草演劇を見てはメトロポリタンのスーパーカジノをに思いを馳せ…と単なるアメリカ被れと切り捨てることもできるのだが、基本的には「熱い」本である。「実力」の国アメリカが、工業・実業・金融・論壇などあらゆる面でいかに日本より進歩しているか、それに倣って日本もいかに努力すべきかということが、熱っぽく述べられている。
帰国直後はみんな持っていても何時かは忘れてしまうこの熱病にも似た思いを、海野はどこまで持ち続けることができたのだろうか。