St.マーティン島からの手紙

 「島に行ってみないか?」
 リョウがガイドブックの片隅に載っていた、バングラデシュ最南端の島への旅を提案してきたのは、まだカルカッタにいた頃だったと思います。この旅で、ずっと山や砂漠しか見てこなかった僕には、非常に魅力的な話でした。
 そんなわけで、ダッカからチッタゴン、コックスバザール、テクナフとバスを乗り継ぎ、最後に2時間ほどぼろ船に揺られて到着したのが、ここセント・マーティン島です。サンゴ礁でできたこの小さな島は、ベンガル人に人気のリゾート・アイランドらしく、殆どのお客はダッカからやって来たお金持ちです。日本に無理やり置き換えてみると、八重山諸島のような感じでしょうか。 8kmほど先の対岸は、もうミャンマーで―テクナフには難民キャンプもあります―、また島で働く人間の何割かもミャンマー人だったりします。正しく、「ベンガルの最果て」といったところです。
 
 テクナフでバスを降りると、他の大勢のベンガル人と同じようにそのまま船会社の客引きに誘導されて、船に乗り込みました。ここで、ダッカから遊びに来た5人組の男たちと仲良くなりました。見るからに小金を持ったエリート・サラリーマンと言った風情で、南の島に酒やら何やらを持ち込んでちょっと羽伸ばし、といった具合です。何でも毎年来ているそうな。彼らの紹介で島の中ほどにある安宿に荷物を置くことができました。こういう時に、現地の人と仲良くなっておくと話が早い。実直そうな老人の経営する小さなゲストハウスで、宿帳には日本人の名前もちらほらと見えました。
 結局、彼らは一泊しただけで帰っていったのですが、その日の夜には、近くの農家から調達してきたニワトリをさばいて、絶品チキン・カレーを振舞ってくれました。都会の小金持ちとは言え、やることは逞しい。

 さて、肝心のビーチはと言うと、相変わらずベンガル湾に沈む夕陽は素晴らしいのですが、綺麗さという点ではちょっと微妙なところです。そもそも泳げないリョウと僕にとっては、見た目が一番大事なのですが、タイ湾のビーチと比べてしまうと、どうにもベンガル湾のビーチはくすんでいるような気がします。岩もゴツゴツしてるし。
 こうなると、ビーチにいる兄ちゃんたちとビーチ・サッカーに興じる位しかやることはありません。コックスバザールではあまり活躍の場がなかったボールの出番です。とは言え、ここもバングラデシュ。このビーチ・サッカーも一筋縄ではいきません。見慣れない外国人がボールを蹴っている―しかも旅でなまり切った身体で―ということで瞬く間にギャラリーが増えます。気づけば、ここでもぐるりと囲まれていました。

 明日には、再び北上を開始します。チッタゴンダッカ、そしてそこからバングラデシュの北端チラハティと、バングラデシュを縦断し、再びインドへと戻る予定です。