カトマンズからの手紙(4)


 オルテガ氏が言っていたように、次の日のカトマンズはほとんどの店のシャッターが下り、道を歩く人の姿もまばらで、「何かある」という雰囲気が濃厚に漂っていました。街角に立つ兵士もいつもより多かったですし、夜は夜で、装甲車がタメルにまで入ってきていました。
 まったくもって尋常ではありません。
 結局その日は、僕たち身の回りでは特に何も起きなかったのですが、市内のどこかで銃撃戦があったとか、中国国境近くの街コダリを通る幹線道路が爆破されたとか、そんな噂が飛び交っていました。その噂が本当なのかどうなのか確かめませんでしたが、「そうだとしても不思議ではない」と思わせるような様子ではあります。

 僕たち旅行者は所詮は通過するだけなので気楽なものですが、ここに住む人たちは、そうはいきません。旅行者の数も例年に比べて激減しているので、特に旅行者相手の商売は上がったりのようです。土産物屋の客引きの具合も、何となく切迫しているような気がしますし、何か買い物をした時の感謝のされ具合をとっても、気持ちのこもり方が違う気がします。
 とは言え、カトマンズに来る旅行者が絶えるということはありません。先にラサを出たノブとハッカクにも再会しましたし、リョウもひょっこりやって来ました。あと数日もすると、タダヒコやマサたちも着くらしいです。一人旅と言っても、この辺りのルートの選択肢はそんなにないので、同じ時期に旅をしていると何度も顔を合わすことも珍しくないのです。旅行者同士の再会というのは、同窓生との再会ような感覚で、ついついそのまま御飯の約束なんかもしてしまいます。そんなメンバーが一人増え、二人増え…。

 僕のカトマンズ滞在は、緊迫した街の空気に包まれた妙な居心地の良さの上に成り立っています。
 こんな感じで何となくカトマンズにいるのですが、気づけば1週間が経ってしまいました。インド・ビザももうすぐ取れる見込みだし、人民解放軍のコートの買い手も見つかった―チベットに向かう旅行者に売ったのですが、買いたたかれてしまいました―ので、そろそろカトマンズを出てもいい頃なのですが、どうにも腰を上げる気になれません。
 リョウからは、新年をバングラデシュで迎えないか?と誘われています。特に何もないイスラムの国の新年。何でなのか、よく分かりませんが、そんな酔狂も悪くないと思い始めました。