カトマンズからの手紙(1)


 今、カトマンズにいます。
 一昨日、チベットから一緒に来たリュウとヨウコさんと一緒に、中国国境に近いバラビセという街から移動してきました。常に靄のかかったヒマラヤの小さな街の雰囲気も悪くなかったのですが、久し振りの「大都会」は、たとえ排気ガスにまみれていたとしても、やっぱりうれしいものです。

 カトマンズには、もっと言うとタメル地区には、僕たち旅行者の望むものが全てあります。
 フラっと入った喫茶店でつまむモモと生姜のきいたチャイの美味さ。夕食の時についつい入ってしまう日本料理屋の質の高さ。薄っぺらい財布の強敵、軒を連ねる露店の充実っぷり。時間を持て余す僕たちの味方、文庫からエロ本まで品揃え抜群の古本屋と日本語環境のインターネット。すれ違いざまに「ミスター、ハシシ、○○ルピー」と耳元で囁く売人たちの、ある意味「名人芸」。歩いているだけで楽しい。
 もちろん、観光名所もたくさんあるのですが、この直径数百メートルの空間から一歩も出ずに快適な生活が送れてしまうのです。バンコクのカオサンはあまり好きな雰囲気ではなかったのですが、カトマンズの持つ独特な空気にはどことなく妙な安心感を抱いてしまっています。結果として僕も、世界中から「何かないか?」と同じような顔でキョロキョロしながら集まってくる旅行者と同じような顔をしてカトマンズの露地を歩いているんだろうと思います。

 とは言え、良い事ばかりではありません。ここのところ話題になっているマオイストと政府軍のいざこざも、僕たちと決して無縁ではありません。カトマンズまでのバス―ローカルバスで、6時間もかかってしまいました―でも、幾つか検問所があり、その度に銃を持った政府軍の兵士が乗り込んできました。さすがに僕たち旅行者を取り調べることはありませんでしたが。ここカトマンズでも、ポイントになりそうな街角にはやはり兵士が立って、道行く人たちに目を配っています。
 表面上は平穏だけれども、どことなく緊張感が漂っている。そんな感じでしょうか。ただ、僕たちにとって一番残念なのは、普段は夜遅くまで開いているらしい色々な店が、20時には閉まってしまうことです。インターネット・カフェに入り浸る時間が増えそうです。

 「聖なるヒマラヤに抱かれた穏やかな街」。そんな僕のカトマンズに対する一方的なイメージは、一瞬で吹き飛びました。身も蓋もない言い方をしてしまうと、「排気ガスと人の欲望にまみれた盆地の街」です。