中島力造『欧米感想録』

中島力造 『欧米感想録』 東京, 東亜堂書房, 明治44(1911)年, 254p.

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中島力造(1858-1918)は京都生まれの倫理学研究者で、1982年から東京帝大で教鞭を執った人物である。本書は、本人多忙ということで実際の執筆は他人に任せていたらしい、中島が明治12(1879)年から23(1890)年にかけて欧米諸国に留学した際に感じた事柄を明治42年に欧米出張した際に見聞した事柄と対比させながらまとめたもの。
さて、日露戦争を経て日本の威勢が高まっていたこの時期に「欧米にはまだまだ追いついていない」という問題意識をもって中島がこの本を書いたのは明治末年。最初に来た時は馬車だったのが今や地下鉄に、建築も高層ビルが立ち並び・・・と二十年ぶりの欧米諸国のあり様は、日本の歩みを上回るペースで変化していた。風俗にしても、宗教の権威は落ちて、その一方で利潤追求の気風が広まり、格差は拡大し・・・と人々の気風もすっかり様変わりしていた。
外国を一度訪れた際の旅行記というのはここでも多く紹介していて珍しもないが、本書のように同一の人物が同じ場所を二度訪れてその変化を記すという趣旨のものは珍しいと思う。