金子堅太郎『遊米見聞録』

金子堅太郎 『遊米見聞録』 東京, 八尾書店, 明治33(1900)年, 168p.

<本文>

明治32年5月、金子堅太郎(1853-1942)は母校であるハーバード大学から名誉学位(名誉法学博士号)を授与されるということで、授与式に参加するために渡米した。この渡米要請は実は二度目なのだが、今回は、折しも金子が農商務大臣を務めた第3次伊藤博文内閣が前年に総辞職して「閑散の身」であったために実現したらしい。
本書は、金子が日ごろより蓄積していたアメリカに関する知見を踏まえ、久々の渡米で見聞した事柄を追加してアメリカの農工商業の現状や外交・軍事・通商などについて帰国後に発表した幾つかのレポート(「日本輸出生糸の現在及将来」「米国のツラスト」「太平洋海底電信の敷設」など)をまとめたものである。旅行期間自体は80日とそれほど長くはなかったが、要人との会見や工場の見学などを精力的に行ったようで、充実した内容になっている。
金子は良く知られているように、伊藤博文の下で明治憲法の起草に関わり、諸法典の整備に尽力した人物である。本書の末尾のこの一言には、彼の矜持が込められている言えるだろう。

日本帝国が世界経済の表に立ちて、自国の存立、永続及隆強を決定するは真に今後百載間の経営施設の適否如何に在り。邦家の前途は多望にして復た多難也。経世家たる者何ぞ斯の千載一遇の好機に生まれて、自己の智脳を究め、帝国隆盛の大業に尽痺する所なくして可ならむ耶。