自律進化するデータベースとしての図書館!?

 以前告知した国立国会図書館長=情報工学者・長尾真のシリーズ対談:図書館は視えなくなるか? ―データベースからアーキテクチャへ」第1回、池上高志氏との対談「自律進化するデータベースはつくれるか」(於d-labo、2月12日)に行ってきた。

 恥ずかしながら、情報工学複雑系も全くの門外漢なので、二人のトークセッションにはついていくのがやっとという感じで、その内容もどこまで理解できたいてのかも心もとない、というのが正直なところだ。しかし、耳に残ったキーワードを拾っていくと、オボロゲながら見えてきそうなものもあるかもしれない。馴染みのある「図書館」に引きつけながら自分なりに考えたことを、まとめてみたい(間違っていたらすいません、と今から謝っておきます)。
 そもそも、情報工学複雑系とは何か。トークセッションの中盤、やおら発した池上氏の「センサーに<心>は必要だと思いますか?」という問いかけに、長尾氏が「センサーは、<判断>できる必要があると思います」と即答したところにそれが端的に出ていると思った。
 単なるセンサーにプラスαを与えるときに、<心>という何とも不可解なものを作ってしまおうとするのが複雑系だとすると、経験を蓄積してそこからルールを抽出することでセンサーの「判断」の精度を高めようとするのが情報工学。このアプローチの違いが、この二つの学問の違いであり(「判断」というのは工学全般に当てはまるのかもしれないが)、両者のスタンスの違いなのだろう。
 また、「アンチ図書館」を標榜する池上氏がその理由として「アトランダムにピックアップしてくれる検索の方法が好きなので、図書館の対象を絞り込んでいく(optimize志向の)検索の方法は好きではない」という趣旨のことを言い、それに対して長尾氏が「全員がそうではないだろう。むしろユーザとシステムの対話によって対象を絞り込んでいく検索の仕組みが望ましい」というコメントを返していたが、ここでも複雑系情報工学のアプローチの違いが出ているのかもしれない。
 さて、自分が一番興味深かったのは、詳しい人にはもう当たり前のことかもしれないけど、次のような「脳の働き」についての話だった。
 人間("Brain")を取り巻く"Environment"がある。"Environment"から"Brain"に様々な情報"が送り込まれ、"Context"として蓄積される。その際、その媒介の役割を果たすのが"Agent"である。"Agent"はまた、蓄積された"Context"から"Rule"が抽出する自己組織化の役割も果たす。この"Agent"こそ、知覚に他ならない。
 まとめるとこんなところなのだが、これを単純化した図に落とし込んでみた。

 この概念図を、社会における図書館の役割に落とし込んでみると、"Environment"(即ち社会)における"Brain"としての"Library"とその"Agent"である"Librarian"、そして蓄積される"context"としての"Materials"とそこから抽出される"Knouwledge"と置き換えることができる。

 さらに、この概念図を図書館のサービスの一つ"Reference"に落とし込んでみると、"Environment"(即ち社会)における"Brain"としての"Reference"とその"Agent"である"Librarian"、そして蓄積される"context"としての"Case"(レファレンス事例)とそこから抽出される"Report"(パスファインダー)と置き換えることができる。

 この概念図において、変数としての"Environment"を"Brain"(Library/Reference)にどう読み込ませるのかという大問題があるのだが、そこでポイントになるのは"Agent"としての"Librarian"の役割だろう。日本の図書館員の実情やそれを取り巻く様々な動きについての言及はここでは避けるが、複雑系情報工学いずれのアプローチにしても、図書館員という「ヒト」をどう扱うかが図書館というものを考える際の最大の問題だろう(長尾氏にしても、ここの部分の機械化は現時点では難しいという見解だったが)。
 こうやって考えてみると、図書館そのものが「自律進化するデータベース」と言えないだろうか?("as is"というより"to be"のニュアンスで)

 以上、思考のトレーニングでした。