「旅の黄金世代」再考

去年、友人である大陸堂店主君(id:tairikudo)と「現在30歳前後の我々は、≪旅の黄金世代≫なのではないか?」という居酒屋トークをした。そして彼は、その内容のネタを通貨レートという視点から、

自分やyashiが一番ガチンコで旅をしていたのは2000年から2002年ぐらいであり、その当時のふたりの年齢は21歳から24歳ぐらい。金はないが時間はある学生時代の後期を過ごしていた我々は、わずかな金を持って外国をほっつき歩く生活をしていた。
(中略)
2002年あたりが近年では基軸通貨に対して円が一番強かった時代なのである。金はないが時間がある学生がちょっと割のいいバイトをすれば数十万円は貯められ、その金である程度外国をほっつき歩けるのにいい時期だったという時代である。
(中略)
1960年代は一生に一回ハワイに行ければいい時代だった。サントリーの「トリスを飲んでハワイに行こう」という秀逸なキャッチコピーが流行った時代だった。1970年代は沢木耕太郎が2000ドルのトラベラーズチェックを持って深夜特急に乗った時代だった。1980年代は中国旅行などが解放され、兌換券などを闇両替しながら個人旅行者が勃興してきた時代だった。1990年代は小林紀晴が「Asian Japanese」で自分探しの旅に出た時代だった。そして現在進行形の2000年代は、諸先輩方が1ドル=360円の時代から必死で勝ち取ってきた1ドル=100円時代の恩恵を享受している時代である。その最初の部分を享受させていただいたのが、現在30歳前後の「旅のゴールデンエイジ」の我々である。

という風に掘り下げてくれた。確かに、ここで掲載されている表(出典は不詳)を見れば、円がドル・ユーロ・ポンドといった基軸通貨にたいして、2000年をピークとして最も強かったことがわかる。これに、「訪日外国人旅行者数及び日本人海外旅行者数の推移」観光庁HPより転載)もあわせてみてみると、やはり2000年に日本人の出国者数が17,619,000人とピークに達していることが分かる。

1960年代の海外旅行解禁以降、紆余曲折はあったものの、強くなる円、諸国(特に東部アジア)政情の相対的な安定、社会の成熟といったことを背景にして、海外旅行が定着するとともに旅行者数が増加し、それがピークに達したのが2000年だということなのだろう。確かに、先人達の通った苦労を知ることなく、強い円を持って比較的平和な世界の旅行を楽しむことができた僕たちは、「旅の黄金世代」と言えるのかもしれない。
一応言っておくと、僕は2000年(つまり大学3〜4回生)には国外に出ていない。1999年の初めての東南アジア一人旅の際、出会った旅行者から「次はどこに行くの?」と尋ねられるのがあまりに煩わしくて、わざと「十津川村」とか答えて相手を絶句させているうちに、本当に十津川村にしか行かないことになってしまった。今になって思えば何とももったいないことをしたと思うのだが、後悔先に立たず。
閑話休題
しかし、その後、2001年の同時多発テロ、2003年のイラク戦争SARS、2007年の燃料費高騰による実質的な値上げなどもあって、出国者数は微減しているのは明白だ。そして、この不況である。おまけに、昨今は「若年層の海外旅行離れ」が旅行業界を中心に深刻な問題となっているようだ(「若者の海外旅行離れ「深刻」―「お金ないから」に「休み取れない」」(08/4/30 J-CASTニュース))。
「微減」と書いたが、60代以上のシニア世代の旅行者数はむしろ増えているので、こと若年層に限れば、下げ幅は更に大きくなる(しかも、女性より男性の下げ幅の方が大きい)。僕たちが学生時代には殆どなかった携帯電話やインターネットに対する出費が増えてしまったこと。インターネットを通じて未だ見ぬ異国の地の情報が大量に入るようになったこと。そこには、様々な原因があることは想像に難くない。
こういった状況を考えれば、「30代・40代・50代・60代になっても旅を続けるのはもちろんだが、最近考えているのは、次の世代に日本経済を発展させた諸先輩から引き継いだ「ゴールデンエイジ」の恩恵をそのまま引き継ぐこと。」と大陸堂店主君は書いているが、現時点での見通しは決して明るくない。
僕たちが「最後の≪旅の黄金世代≫」とならないようにするためには、何が必要なのだろうか? 観光庁アドバイザリー・ボードに就任した中田英寿氏には、「旅の黄金世代」代表としても、密かに期待していたりするのだが…。