中央アジア学フォーラム 2008/9/20

2008/9/20の中央アジア学フォーラムでの発表レジュメ(資料紹介)を転載します。
http://www.let.osaka-u.ac.jp/toyosi/caf/caf-j.html

【資料紹介】
山西省北朝文化研究中心、張慶捷、李書吉、李鋼(編)『4-6世紀的北中国与欧亜大陸』、科学出版社、2006年12月、378p。

  • 資料の目次については→Marginal Notes & Marginalia, 07/4/1
  • ここで取り上げていない論文は、別の発表者が担当したたのです。ご了承ください。

★便利:これまでに発表された山西省に関係のある北朝期を扱った論文を幅広く再録。
★不便:文献の出典情報を殆ど記載していない。古いものもあるので、その後の研究動向のフォローも必要。

■張慶捷、北朝入華外商及其貿易活動 (pp.12-36)

  • ソグド商人が主要検討対象(波斯、大月氏、印度などは紹介のみ)。
  • 正史を中心とした文献史料の検討が中心。考古史料(+トルファン文書)を補強材料に。
  • 北朝期のソグド商人について、概要、規模(墓葬雕絵等から大規模と類推)、役割(商人から芸人、使節、定住商人へと変化)、その他諸問題(随葬史料から類推したキャラバンの入華時と離華時の交易品の違い、情勢による交易の盛衰の変化)など、総合的に検討。

北朝期の活発な外国商人の活発な活動は、続く唐代への基礎となった。


■安家瑶、大同地区的北魏玻璃器 (pp.37-46)

  • 大同周辺の北魏墓出土のガラス器が検討対象。
  • 墓主はほぼ不明で、規模などもまちまちだが、随葬品等から一定以上の身分と判断。
  • 北魏武帝期(424-452)、月氏人が「五色瑠璃」を製造(北史西域伝)。
  • 漢代ガラス器:鋳型製法⇔大同ガラス器:吹制製法(BC1C後半、地中海地域で発生、AD1Cにササン朝に伝わる、インドでもAD2Cには伝わる)。

→AD5Cに北魏にガラスの吹制製法が中央アジア経由で伝播。


■王銀田、北朝時期絲綢之路輸入的西方器物 (pp.68-83)

  • 北朝発見の金銀銅器・ガラス器・金銀貨・首飾りが検討対象。

→出土品と関係先行研究を紹介。


■Catherine Delacour、PenePlope Riboud(施純琳訳)、巴黎吉美博物館展囲屏石榻上刻絵的宴飲和宗教題材 (pp.108-125)

  • ギメ美術館所蔵の囲屏石榻(6C末、中国北部出土、私人蔵)の雕絵が検討対象。
  • 主題は、「馬を引く胡人と犬」「太陽神(surya)」「Kubera神の乗った象を引く胡人」「野外で突厥人に面会する墓主」「中国風の宴会」「葡萄酒を飲みながら胡騰舞を観る墓主(ギリシャ風?)」「獅子・山羊などの狩猟」「水牛と沼沢(インド説話?)」「野外の宴会」「牛車」など(ケン教の影響は見られない。むしろ、ギリシャ・インド)。
  • 被葬者は不詳だが、墓主は胡面。

→雕絵には、北部インド+中央アジアギリシャ文化の影響(イラン・中国も)。


■栄新江、有関北周同州薩保安伽墓的幾個問題 (pp.126-139)

  • 安伽墓(579年、2000年西安出土)の墓誌・雕絵が検討対象。
  • ポイント:(1)ソグド人の墓葬。(2)ソグド集落。(3) 薩保のケン教信仰。(4)突厥との関係。(5)ソグド文化の影響。
  • 墓誌:「父・安突建」=5C末に入華。「同州」=五胡期には各種胡人混在、北魏期にはソグド集落。「大都督」=ソグド首領の軍事力取り込み。「墓葬地」=北周のソグド人墓集まる。
  • 雕絵:「中国風住居で寛ぐ薩保」「突厥首領に歓待される薩保」「突厥人と狩猟や舞踊を楽しむ薩保」「キャラバンで出立する薩保」など。

→安伽は、薩保が政権に取り込まれてソグド集落の首領から官人に変わる北周時代の人物。


■余太山、魚国淵源臆説 (pp.140-147)

  • 太原出土の虞弘(533-592)・龍潤(561-653)墓誌が検討対象。

→虞弘(魚国人)のルーツはシル河流域のマッサゲタイ人。龍潤のルーツはカラシャハル。


■Matteo Compareti(毛民訳)、対北朝粟特石屏所見的一種神異飛獣的解読 (pp.166-189)

  • 北朝墓出土の囲屏石榻雕絵に見える有翼神獣が検討対象。
  • 有翼神獣:イランからソグディアナ経由で中国に伝わる(6C北朝墓の雕絵に)。⇒唐代には少なくなる(安禄山後の反ソグドの気運が影響か)。

→ソグド人墓の文物はイラン学研究を推進⇒それが北朝の複雑な文化研究にも寄与。


■Frantz Grenet(毛民訳)、北朝粟特本土納骨瓮上的ケン教主題 (pp.190-198)

  • 中央アジア出土(ウズベキスタンキルギス)オスアリの雕絵が検討対象。
  • オスアリがソグディアナに広まったのは5,6C(ケン教信仰と関係)。主題は、「女性ダンサー」「顔面自傷の男達」「拝火壇と祭司」など。
  • サマルカンド近くのBiya-Nayman遺跡出土のオスアリ(7C、エルミタージュ美術館所蔵):ソグドの「6大不朽元素(天空・水・大地・植物・動物・火)」の神々。シャフリザーブス出土のオスアリ(6C):死者と神々、楽隊、犠牲動物。死者が死後の世界へ向かう様子。

→詳細は不明。今後の中央アジアのオスアリの発見に期待。
*オリジナル:”Zoroastrian Themes on Early Modieval Sogdian Assuaries” A Zorostrian Tapestry, Art, Religic Culture, ed.ph.J.Godej and F.P.Mistree, Majin Publishing, Ahmedobad, 2001.


■毛民、史君石堂上所見エフタル人形像初探 (pp.199-214)

  • 新疆出土考古史料及びソグド人墓出土囲屏石榻上のエフタル人像が検討対象。
  • ガンダーラ出土のエフタル銅貨(6C後半)のエフタル王Napki Malkaの王冠=円珠の鉢巻き+三日月の飾り(インドの影響)⇒史君墓に描かれた遊牧民族と同じ=エフタル人か。ホータン・カシュガルの寺院跡出土の陶罐×2(6C頃)にも同様の主題。
  • 安伽墓囲屏石榻(左5)上、Mih所蔵囲屏石榻(PL6b)、にエフタル人(6C後半、エフタルは突厥に臣属=同時に描かれても不思議はない)。史君墓囲屏石榻(北壁2、西壁2)、アフラシアブ出土壁画(ソグド王出行図)も同様にエフタル人。突厥人と区別。

→ソグド人墓にエフタル人像:ソグド首領(薩宝)たちとの密接な関係。


■渠伝福、従考古発現看北朝中外絵画交流 (pp.263-279)

  • 北朝期の墓(山西・寧夏)から出土した絵画が検討対象。
  • 固原北魏漆棺画の鮮卑人→ウズベキスタン出土のエフタル人画と類似の構図。
  • 『歴代名画記』:3-6Cにソグド姓画家(曹・康)→ケン教芸術の影響(Cf.ソグド人墓の発見)、中国の絵画も発展。
  • 山西出土の北朝墓(狄迴洛・徐顕秀等)の絵画:有翼神獣・西域風楽隊・連珠文菩薩像などのモチーフ(ソグド・イランの影響)。

北朝期の絵画は西方の影響大、唐代の発展に繋がる。


■弓場紀知(王虎応訳)、長崎県壱岐双六古墳出土白釉緑彩圓紋碗 (pp.310-323)

  • 長崎県壱岐島双六古墳:全長91M、前方後円墳、横穴石室、他に金銅製大刀頭・馬具・新羅土器など、6C後半。
  • 白釉緑彩円珠紋碗破片:2001年発掘、径8cm、高7cm、北斉〜隋代=6C中〜後半。7C初の追葬の可能性もあり。中国製の鉛釉陶器。6Cの華北で作成されていたものに似る(飛鳥石神遺跡からも同形の緑釉片が出土)。
  • 6C華北で再び作成されるようになった鉛釉陶器は、漢代のものと異なる(河北・河南・山西の墓で出土。緑釉は多くない。円珠紋のあるものも(洛陽大市出土碗、慶州雁鴨池出土緑釉碗片など)⇔西方の金属・ガラス器の技術の影響か。

北斉新羅百済)⇒壱岐と伝来したものか(新羅、574年に北斉に遣使)
弓場紀知『古代祭祀とシルクロードの終着地:沖ノ島(シリーズ「遺跡を学ぶ」13)』(新泉社, 2005, pp.89-90)より補記。


■楊巨平、就山西北朝、隋唐文物看異域文化的伝入 (pp.335-345)

  • 山西出土文物(虞弘墓・徐顕秀墓など)が検討対象。関連先行研究も紹介。
  • 虞弘墓:イラン文化の影響=雕絵に拝火壇・波斯人・人物像の光背。人骨を石床に。
  • 山西にもギリシャ文化が伝わる?(ヘラクレス?=棍棒+獣形帽の陶俑:山西長冶北槽唐墓。河北でも発見(河北献県唐墓)。徐顕秀墓出土のリングにも)

→山西北部=農牧接壌地帯:東西交流も盛んで、近年発見されている文物の検討が必要。