【番外編】若林純『謎の探検家 菅野力夫』

今回は【番外編】ということで、最近読んだ本を紹介したい。

謎の探検家菅野力夫

謎の探検家菅野力夫

恥ずかしながら、本書を手に取るまで菅野力夫(1887-1963)という人物のことは知らなかった。彼は一冊の本も論文も書かなかったのだから、図書館屋としてはどうしようもない。
菅野は明治20年福島県郡山市に富農の次男として生まれた。旧制中学を中退後、頭山満の書生となって、明治44年に頭山と共に辛亥革命に揺れる上海に渡った。その後、「世界探検家」という肩書を名乗り、合計8回にもの世界探検旅行に出かけた(寄付や講演、そして自らが訪れた場所の絵葉書(自分のコスプレ写真も多い)を売って費用を賄ったようだ)。よく知られているとおり頭山の下からは多くの大陸浪人が越境していったが(チベットに入った矢島保次郎もその一人だ)、その中でも「変わり種」、そして天寿を全うしたという意味では「成功者」とも言える存在だろう。
本書は、著者が遺品の中から発見した写真とメモを元にこれまでまとめられてこなかった菅野の事績をよくまとめていて、非常に興味深い。菅野の残した写真もふんだんに掲載されていて、パラパラと眺めているだけでも楽しい(年表がないのは少し残念だが)。
さて、それぞれの「世界旅行」の行先を見てみると、気づくことがある。

すなわち、ともに日本人移住者/移民の居留地を経由して(そして講演などで路銀を用立てていく)いく旅なのだが、その行先は1920年代までは明治時代以来の労働移民の居留地を(こんなところにも!と驚かされることも多い)、1930年代からは日本軍の進出先の植民地となっているという点だ。世界探検家もまた、時代の子であったというところか。
ところで、菅野の残した写真や絵葉書、誰かデジタル化してflickrとかに載せてくれないかな。そもそも、どこにアーカイブされているのだろうか?