旅の図書館

これまで<旅>と<図書館>の関わりについて何度か取り上げているが、もう一つその前提となるべきものへの言及を怠っていた。
それは、<旅の図書館>。「"テーマのある旅"を応援する」という理念の下、財団法人日本交通公社が運営する、恐らく日本で唯一の<旅>の専門図書館である。
昭和53年10月に設立されたこの図書館は、32,000冊(うち和書29,000冊)の蔵書を誇り、その検索のためのOPACはインターネットでも公開されている(千代田区立千代田図書館のOPACからも横断検索が可能)。また、最近は『旅の図書館』講座を開催するなど、サロン的な活動にも力を入れているようだ。
恥ずかしながら、これまで訪ねる機会がなかったのだが、先日、休暇を利用して訪れた。到着したのが夕方だったので、都合一時間程度の滞在でしかなかったけれども、その際の印象を簡単にまとめておきたい(職員の方から特に話を伺ったわけではないので、事実誤認があればご指摘頂けると幸いです)。

参考;

東京駅の八重洲中央口を出て、左に折れて少し歩くと左手に見えてくる第二鉄鋼ビル。この地下1階に<旅の図書館>がある。周囲の喧騒とは隔絶した、小さいけれども落ち着いた空間だ。入り口左のロッカーに荷物を預けて身軽になって、全面開架の書架をめぐる。
世界・国内の地域別に配架された図書。旅行記や写真集だけでなく、観光学や地域振興といった分野や、各地の歴史・民族・産業に関するものも置かれているのが特徴的だ。また、旅には欠かせないガイドブックも充実している。また、地域別の見出し板の横にある紙箱を開けると、中には各国の政府機関などが出しているパンフレット類や新聞の切り抜きなどの所謂「灰色文献」が収められているのが面白い。雑誌棚には業界誌、旅行誌、学術誌、時刻表などの最新刊が並べられているが、とりわけ目に付くのは日本に乗り入れている国際航空会社の機内誌。50誌も揃うと壮観だ。バックナンバーも奥の集密書架に収められている。ちなみに、集密書架には各種の統計資料も揃えられている。
カウンターに目を向けると、1〜2名の職員の方がいて、今回は特に用はなかったけど、気軽に相談できる雰囲気だ。また、カウンターの横には備え付けの端末が2台置かれていて、それぞれ、所蔵資料・レファレンス事例の検索、デジタル化した刊行雑誌の検索・閲覧ができるようになっている(ちょっと使いづらいのが残念だが)。
利用者は、皆さんたくさんの資料を抱えて熱心に調べ物をされている。ビジネスマンや学生っぽい人もチラホラ見えるが、圧倒的にシニア世代が多い。開館時間(平日の10:00-17:30)のせいだろうが、シニア世代の海外旅行者数が近年増えていることに代表されるような、この世代の最近の嗜好も反映しているのかもしれない。ただ、年間利用者数自体は1990年代後半をピークとして、ここのところ漸減しているようだ。
次に、ちょっと視点を変えて、<旅の図書館>の特徴を際立たせるために類似の施設との比較をしてみよう。ちょっと恣意的な部分があるのは承知で、こんな表を作ってみた。

注)ここでいう「公共図書館」は「区の中央館」を、大型書店は「ジュンク堂」を、「専門書店」は「旅の本屋のまど」を念頭においている。
こうやってまとめてみると、<旅の図書館>は、旅人から業界関係者、研究者といった幅広いユーザ層の様々なニーズに応えることが可能な<ユニークな空間>と言うことができるだろう。業界関係者でも研究者でもない僕にとっては、「旅先で訪れるための図書館」というよりは、「旅を調べるための図書館」といったところか。
ともあれ、次の旅に出る前にもう一度行ってみることにしよう。

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