曜日点紅『布哇紀行』

曜日点紅(蒼龍) 『布哇紀行』 臼杵, 曜日点紅, 明治22(1889)年, 58p.

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明治に入ると同時に、ハワイへの移民事業が始まった。不況、出稼ぎ、余剰人口の整理・・・色々な動機や背景があったのだろうが、とにもかくにも日本人、特に九州・四国出身の多くの人々がハワイへと渡っていった。
人が集まり、そして死ねば、寺と僧侶が要る。しかし、明治前半のハワイにはそこまでの「インフラ」は整っていなかったようだ。そのことに、人よりも心を痛めていた人物がいる。それが、今回紹介する僧侶・曜日点紅だ。
彼は、自分の寺を家族や檀家に任せ、明治22年2月に横浜を発ち、3月2日にホノルルに到着した。そして、10月までの7ヶ月間、移民たちの家をまわって読経や説法を行い、また墓に詣でた。何処に行き、何の仕事をしている誰に面会したかが記されているので、結果として「ハワイ日系人物誌」といった趣もある。
本書の前半は、こういった活動記録が主なのだが、後半ではハワイの気候・風俗の概説や、日本人移民の墓のリストなどが掲載されている。
ハワイの日系人社会を切り開いた先人達の痕跡を今に伝える味わい深い一冊だ。