蛇足 「八重山図書館考」

 個人旅行者にとって“情報”は最も大切なものである。ガイドブックだけでなく、宿泊情報や交通情報から政治情報・天気予報などを、口コミや情報ノート、現地の新聞、そしてここ10年はインターネット(ニュースサイトから掲示板、無料WebメールからSNSまで)などを駆使して、様々な情報を集め、旅程を決定していく。海外であれば、情報収集の拠点となるのは、旅行者とネットカフェが集まる安宿街である。安宿街は、えてしてターミナル周辺などの交通の要衝に形成されることが多い。
 今回旅した八重山地方の場合、離島めぐりをする場合の拠点は、島々への船が出る石垣島の離島桟橋となる。安宿街もここから徒歩5分以内の場所にあり、ネットカフェも幾つかある。
 ところで、この桟橋の近くには、石垣市立図書館沖縄県立図書館八重山分館の2つの図書館がある。
 石垣市立図書館は、開架資料も多く、雰囲気もよく(建物も新しく、開放的な作りで音楽が流れている)、地元の人ばかりでなく、旅行者の姿が目立つ。また、2階にある八重山地域情報センターは、この地方の情報の古文書も含めた総合資料室としての機能も持っている。
 一方で、八重山分館は、ごく小規模な図書館だが、インターネットが自由に使える(2台、一人1時間まで、無料サイトのみ。2005年3月現在)ので、こちらを訪れる旅行者も多い。
 この2つの図書館は、旅行者にとって時間つぶしとしてだけでなく、情報収集の“場”として存在するということに、少し驚いた。
 休息したり、ガイドブックを読むだけでなく、最新の情報が調べられたり、自分が見たことをより深く調べられる、そして場合によっては“旅の友”を借りることができる、「旅人のための図書館」。そういう側面を持つ図書館も面白いと思ったのだ。
 もちろん、これを成り立たせる前提として以下の2点が必須なのは言うまでもない。

  • 旅行者がよく通過する街であること
  • 交通拠点の側にあること

 地域の公共図書館は、その地域の住民にサービスするのが基本だとは思うが、千代田区立図書館の(リニューアル)登場はその前提を覆した。その街を訪れる人間が住民よりはるかに多いような観光地の場合は、旅人(観光客ユーザ)に焦点を絞ったサービスするといのも面白いのではないだろうか?
 折しも、ACADEMIC RESOURCE GUIDEの岡本真さんの、

2008-09-03(Wed): 第17回京都図書館大会で「いま図書館に求められる新たなウェブ活用戦略」と題して講演
http://d.hatena.ne.jp/arg/20080908/1220885898
※掲載資料「いま図書館に求められる新たなウェブ活用戦略−試論:観光支援によるLibrary inside」

では、京都を例に、

  • <下調べ>→<旅>というプロセスにおける観光情報のプロバイダとしての図書館の不在
  • 図書館の提供する情報と観光客ユーザの求める情報のギャップ
  • 既存の観光情報源と図書館の持つ観光情報源のマッシュアップ&提供の可能性

ということが指摘されている。ここで指摘されているのは、<観光>という新たな領域で、<旅行者>という新たな対象に、図書館がもっとコミットしていくことの可能性だ。
 こういった観光にしてもそうだが、中小の図書館は、その地域や立地に応じて、様々な形態がありえ、そしてそのことが、地域の図書館の今後の様々な可能性を感じさせてくれるのではないだろうか。そんなことを、八重山の図書館を見て思った次第。以上、蛇足でした。


08/11/4 追記

奈良県立図書情報館イベント情報』「おかげさまで県立図書情報館は開館3周年を迎えました」(08/11/3)
http://eventinformation.blog116.fc2.com/blog-entry-118.html
千田館長は、旧来の図書館の殻を破った図書館づくり、運営を進めていきたいとして、これまでにあまり例のない図書館とホテルとの連携の第1弾、奈良の滞在観光を促進する観点からも、ホテル日航奈良で「千田稔が選ぶ20冊」の宿泊者への貸出サービスを始めること(中略)などの抱負を語りました。

とのこと。奈良は自分の出身地でもあるので、今後も注目していきたいと思います。個人的には、安宿が出現し始めた<ならまち>の中に、こういった図書も含めた<情報ステーション>があると嬉しいのだが・・・