再びオランダへ

オランダを再訪する機会があった。
久しぶりの海外だったので書きたいこともそれなりにあるのだが、まずは「旅」×「図書館」のネタで目に留まったことについて書いておく。

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ハーグ市中央図書館

一つ目は、ハーグの中心部という絶好のロケーションにあるハーグ市中央図書館
6階のフロアを持つ大規模な図書館で、当たり前のように置かれたコンピュータゲームや電子ピアノ、学生と思しき多くの若者が集うイベントスペース、セルフの貸出・各種料金支払い機、多様なバックグラウンドを持つ(ように見える)利用者など目を引くポイントは多いが、ここでは1階の写真に注目してほしい。
図書館の総合カウンターのすぐ左にあるのは、観光情報センター(と土産物ショップ)である。ビネンホフからもほど近いという好立地もあり、またカフェも併設されているということもあり、観光客と思しき人が入れ代わり立ち代わり訪れていた。
図書館自体で観光客向けのサービスや蔵書構築を行っているわけではなさそうだが、図書館という場所を起点に観光客を街へと案内していくという流れが自然に作られていることが窺えた。

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スキポール空港ライブラリー

二つ目は、スキポール空港エアポートライブラリー
実は開館直後の2010年以来の再訪なのだが、この9年の間に、空港と同様にライブラリーも大幅にリニューアルされていた。
とは言え、オランダに関する様々な言語で書かれた本をくつろいで読んでもらう―という基本的なコンセプトは変わっていない。「空港に図書館」というスタイルが着実に根付いていると言っていいだろう。
変わった点を挙げるとするならば、くつろぎスペースが大幅に拡張されたこと、ipadがなくなった代わりに平置きのサイネージがあつらえられていたこと、ピアノが置かれていたこと、といったところ*1
気になることと言えば、くつろぎスペースで本を読んでいる人は見かけなかったことくらいだろうか…。

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オランダ王立図書館
番外編として、再訪となったオランダ王立図書館についても。
ハーグ中央駅の目の前という好立地にあり、貴重な資料が並ぶ立派な展示スペースも備えているのだが、王立図書館という性質、分かりにくいエントランス、訪れたのが平日の昼間…といった幾つかの理由により、閑散としていたのは少々もったいなく感じられる。


おまけ。
ハーグにほど近いスヘフェニンゲン、否、スケベニンゲンの図書館がこちら(開館前だったので入っていないけど)。
名前のインパクト(日本限定)だけなら、世界屈指だと思う。
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  1. 「汽車中の図書室 簡単なる旅中の伴侶」(2017/5/26)
  2. 和田万吉の「旅客の為めに図書館」(2012/8/15)
  3. 『図書館雑誌』2012年8月号に「マレビト・サービス」を執筆(2012/8/14)
  4. マレビトサービス#2:西牟田靖編(2011/5/15)
  5. 同時多発的お花見ストリーム/マレビトサービス#1:石田ゆうすけ編(2011/4/7)
  6. 地域と観光に関する情報サービス研究会第三回研究会(2011/3/25)
  7. 地域と観光に関する情報サービス研究会第二回研究会(2011/2/22)
  8. 地域と観光に関する情報サービス研究会第一回研究会(2011/1/23)
  9. 地域と観光に関する情報サービス研究会(マレビトの会)発足(2011/1/11)
  10. 図書館と観光:その融合がもたらすもの(2010/12/27)
  11. Airport Library @スキポール空港(2010/9/8)
  12. 鼎談「まちづくり・観光・図書館」(2010/7/5)
  13. 観光と図書館の融合の可能性についての考察(2010/5/1)
  14. アーバンツーリズムと図書館(2009/3/24)
  15. Tokyo's Tokyo(2009/3/4)
  16. 旅の図書館(2009/2/12)
  17. 南益行の「観光図書館論(2009/1/27)
  18. 旅人のための図書館を夢想する(2008/12/27)
  19. 蛇足 「八重山図書館考」(2008/10/10)

*1:隣に空港ミュージアムもあったが、これは前もあったような気がする。

勉強会@中央線10周年記念企画第5弾

平成最後の開催となる10周年記念企画第5弾は、「百科事典」を取り上げました。

(54) 2019/2/7 高円寺HACO 斎木小太郎(ポプラ社)「「百科事典」を本気で考えようぜ」

学校での百科事典を使ったワークショップの紹介から、「百科全書/事典ってそもそも…」「日本での百科事典の編まれ方/読まれ方って…」「子どもの調べ方学習って…」*1という話に展開していき、楽しい時間を過ごすことができました。個人的には、西洋と日本の百科事典の編まれ方/読まれ方の違いは、リベラルアーツに対する違いの現れなんじゃない?というネタが興味深かったですね。
参考文献はこちら(結果として「子どもたち」のためだけになってない…というのがミソ)。

ちなみに、帰り道に「ポプラディア買おうかなぁ」と思ったのは、主宰の私だけではなかったようです。
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1年間続いた10周年記念企画はこれにて終了。
元号の到来とともに、仕切り直しての新シリーズとなる予定です(やることはあまり変わらないと思いますが…)。

*1:この話題に限らず、この集まりだと、ある種の「勝ち組バイアス」(経済的な意味ではなく…)がかかってしまうので、その点は要注意かもしれません

勉強会@中央線10周年記念企画第4弾

10周年記念企画の第4弾は、「コミュニティのデザイン」、「図書館におけるデザイン」に続く、デザイン談義シリーズの3回目として、具体的な事例・実践をベースに「図書館のデザイン」について考えてみよう…ということで、千葉大学のアカデミック・リンク、大和市文化創造拠点シリウス、オーテピア高知図書館等の近年の注目案件を多く手がけるデザイナーの酒匂克之さんをお招きしました。

(53) 2018/12/10 高円寺HACO 酒匂克之(丘の上事務所)「(無題)」

これまで手がけてきた(あるいは仕掛かり中の)様々な空間を紹介してもらう中で、酒匂さんが「この部分は不本意なんですよね…」とつぶやくことが何度かありました。
酒匂さんは施設の設計会社から空間や什器のデザイナーとしてプロジェクトに参画されてきました。発注者や設計会社の方針やコンセプト、思い等を踏まえて幾つものプランを提案していく中で、自分の意に沿わない決定がなされることがある、と。それがプランをより良くするものであればよいが、そうでない場合もあって、自分の名前の名前でデザインしたものであるにも関わらず、「不本意」なものが出来上がってしまっている…そういう趣旨でした。
どこの世界でもよくあることと言えばよくあることです。
では、その「不本意」を出現させないためにはどうすればいいのか。
もちろん発注者ー施設整備担当なのか施設運用担当なのか、複合施設の場合は…と簡単に整理できないのですが-や受注者のレベルの問題もあるでしょうが、酒匂さんは「自分たちデザイナーと対等な関係であってほしい」とも語っていました。
発注者と受注者の上下関係、元受けと孫受けの上下関係…建築に限らず大きなプロジェクトには様々な「対等ではない関係」が埋め込まれています。その関係をうまくコントロールしながら意思決定のプロセスをデザインしていけたら…と感じながら、アルコールも入って円滑にまわる議論に身を委ねていました*1
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*1:それがどの立場からか、というのはケースバイケースでしょう。最近目にする、設計者と運用担当、市民を巻き込んだようなワークショップもそのソリューションの一つと位置づけられると思います。

勉強会@中央線10周年記念企画第3弾

10周年記念のメイン企画は、信州への慰安旅行でした。
中央線の行き着く先である信州で時間を気にせず議論を楽しむ…というのは、ここ数年の常連メンバーでもある平賀研也さんから何度となくお誘いを受けていたのですが、この機会に行かずにいつ行くのか!?ということで、平賀さんの全面協力の下、ついに実現しました(参加者は、立ち上げ当初からの常連メンバーだけでなく、ご新規の方もいたりして、総勢8名。)。

(52) 2018/9/16-17 慰安旅行@中央構造線塩尻、高遠、伊那、茅野

初日は13時に塩尻駅に集合しました…が、自分は渋滞に巻き込まれてしまい、いきなり1時間以上も遅刻。
時間通りに集まった皆さんには、一足先にえんぱーく見学に行っていただいたのですが、これでえんぱーくがなかったら…と思うと、ゾッとします。


えんぱーく(photo by K.NIKAMI

遅刻してしまった我々は、えんぱーくの空間の使い方に感銘を覚えたりしたものの、ゆっくりと見学する間もなく(自業自得…)、歩いて5分ほどのnanodaへ。ここは東京在住の方が運営に参画している空き家を利用したコミュニティスペースとのこと。


nanoda(photo by K.HIRAGA

聞きたいことはたくさんあったのですが、ここもあまり時間がとれず(再び自業自得…)、車に分乗して高遠を目指しました。
途中、少し回り道をして杖突峠で茅野〜諏訪一帯の眺望を楽しみました。


杖突峠(photo by H.NAKAMATA

そして、終了間際の高遠ブックフェスティバルに何とか間に合いました。
さらに高遠町図書館で貴重な地域資料の実物を見学させてもらえるというオマケつき!


高遠ブックフェスティバル(photo by K.HIRAGA

そしてメインの中のメイン、夜は伊那市内で地酒を大量に買い込んでの大宴会。
美味い酒と料理でいつも以上に滑らかになった議論は、日を跨いで盛り上がったのでした。


宴会@ Wild Tree(photo by H.NAKAMATA

伊那市郊外の宿で迎えた翌朝は、前日とは打って変わってののんびりモード。
ちなみにこの宿、参加者の一人である水谷長志さんからのご紹介だったのですが、緑に囲まれた素晴らしいロケーションでした。


La Ventana(photo by K.HIRAGA

伊那市内に出てコーヒーを飲んだり伊那市創造館の検閲本コーナーを見学したり街をブラブラして、伊那の文化の豊穣さを垣間見ました。


伊那市街(photo by T.HASEGAWA

ここで自分含めた東京からの乗車組は離脱(その後、東京まで6時間半…)。その他の皆さんは、茅野の文化施設を見学して解散となった(そして一部の面々は更に松本に向かった)ようです。
旅情に美酒美食、思わぬ出会い、そして尖った議論…素晴らしい慰安旅行となりました。
参加いただいた皆さん、全面的にコーディネートして下さった平賀さんファミリー、そして見学先の皆さん、どうも有難うございました!

勉強会@中央線10周年記念企画第2弾

10周年記念企画の第2弾でした。
今回もアカデミックとエンターテイメントが両立した時間にしたいなと思い、国立科学博物館で7月13日から開催されている「特別展昆虫」との非公式タイアップ企画として、この会に9年ぶりの登壇となる神保宇嗣さんに、「中の人」として特別展の裏側や見所などを語っていただきました。

(51) 2018/7/25 高円寺HACO 神保宇嗣国立科学博物館)「初めての昆虫展、初めての特別展。」

神保さんにお会いするのは久々だったのですが、昆虫(特に蛾)への溢れんばかりの愛情と安定のマシンガントークは不変でした。展示対応の大変忙しいときに登壇をお引き受けいただいた神保さんに感謝いたします。

余談ですが、国内で(プロ・アマチュア問わず)所蔵されている各種標本の寄贈を受け続ける同館のお話は、どこかで聞いた増え続ける資料に四苦八苦するどこぞの某国立図書館の話とそっくりなことで…。

勉強会@中央線10周年記念企画第1弾

早いもので、このささやかな集まりも10周年を迎えました。
せっかくの10周年なので、同じように開催するにしても少し"ひねり"を加えたい…ということで、10周年記念企画の第1弾を開催しました。

(50) 2018/3/23 高円寺HACO 鈴木宏節青山学院女子短期大学)「モンゴルで探す騎馬遊牧民の歴史史料」

この10年くらいはアカデミックな世界から離れていましたが、その間に温めていたアイデアがありました。それが、この10年くらいで世間に定着してきた「サイエンス・カフェ」の歴史学版をこの勉強会でやる、というものです。
私が学生時代に学んだのは中央ユーラシアの古代史というレア?な学問です。すでに離脱した私が言うことでもないですが、人文学>歴史学東洋史学>中央ユーラシア古代史は、決してとっつきやすい、メジャーな学問ではありません。しかし一方で、断片的な史料の地道な解読からダイナミックな歴史像を構築していくこの学問における一連の営みは、極めて刺激的です。
その面白さをより多くの方と楽しむ時間を共有したいと思い、今回、大学院の先輩で、先ごろモンゴルで大発見をして紙面を賑わせた鈴木さんに登壇をお願いしました。


久々のプロジェクタを囲むレクチャー形式でしたが、鈴木さんの洗練された語りとスライドを活かすにはやはりこのカタチでしょう。
参加者の多くは鈴木さんのフィールドに馴染みの薄かったのですが、それ故に少し齧っている僕なんかが引っかからないところで質問が出てそこから話が膨らんで…と、「勉強会の王道」とでも呼ぶべき盛り上がり方になったのが印象的でした。